骨盤は腸骨・恥骨・坐骨からなる寛骨と仙骨、尾骨からできている。
そして骨盤には寛骨と仙骨によってつくられる仙腸関節というものがある。
仙腸関節は周囲の靭帯によって強固に連結されている。
テレビなどでよく「骨盤が歪んでいる」という表現を耳にする。
インターネットで検索すればカイロや整体の店が表示され、「歪んだ骨盤を治します」などと書かれている。
ここで使われている「骨盤が歪む」とはどのようなことを意味しているのであろうか。
私が通っていた札幌の整体学校でも骨盤を矯正する手技が教えられていた。
左右の足の長さや骨盤の違いなどを調べ、患側とされる右か左どちらかの骨盤に瞬間的な圧をドスンと加え矯正するというものだ。
皆さんは「骨盤が歪んでいる」と言われたときどのように思うだろうか。
骨盤自体が変形していると思わないだろうか。
姿勢の悪さや片側の筋肉だけを酷使することにより、仙腸関節がズレ骨盤に左右差がうまれると。
私は昔、骨盤の左右差をそのようなイメージで捉え、仙腸関節を元に戻そうと骨盤に力を加えていた。
しかしである。
仙腸関節は動かない。
動くという人もいるが、それは数ミリの話である。
ここでいう動かないとは、目に見える大きさではっきりとは動かないということである。
先にも書いたように仙腸関節は強固な靭帯によって頑丈に補強されている。
仙腸関節がズレることにより骨盤に2cm近い左右差ができてしまっていとしたら、靭帯はブチブチに切れてしまっている。
それはもう、とんでもない痛さである。
「腰が慢性的に痛くてつらいんだよね~」どころの話ではない。
骨の病気や強大な力が加わり骨折でもしない限り、骨盤自体は目で見てはっきりと分かるほど動いたり歪んだりはしない。
ではなぜ骨盤に左右差が生まれるのか。
それは背骨の関節が動いているか変形しているからである。
背骨、特に腰椎が曲がれば骨盤は傾く。
例えば首の骨、頚椎を右に傾ければ頭蓋骨も右に傾く。
しかし、このとき
「左右の耳を比べると、右の耳の方が左の耳より下がっているので、あなたの頭蓋骨は歪んでいます」
などと言う人はいない。
骨盤だって同じことだ。
骨盤が歪んでいると言うのはおかしい。
表現としては「骨盤が傾いている」が適切だろう。
いや、言葉の言い回しは別にどうでもいいのである。
傾きを歪みと言ったとしても、腰痛や体の不調の原因を正確に捉え、きちんとした施術を行っているのならば何の問題もない。
問題なのは施術者側に本気で「骨盤自体が何センチも歪む」と思っている人がおり、骨盤を元に戻すことで腰痛が治ったりダイエットができると思っている人がいるということである。
妊娠をすると赤ちゃんを産みやすくするためにリラキシンというホルモンが分泌され、骨盤の前側の恥骨結合という部分が緩み出産時に骨盤が広がる。
そして出産が終わればホルモンの分泌も止まり恥骨結合の緩みもなくなり、骨盤は元の状態に自然と戻る。
出産後、骨盤が広がりっぱなしで元に戻らずそれが原因で太りやすい体質になっていると言う人がいるが、もし広がりっぱなしならばそれは恥骨結合が離解している。
恥骨結合離解は強い痛みを伴い普通に日常生活を送ることはまずできない。
レントゲンを撮ればいっぱつで分かる話である。
骨の病気や骨折でもしない限り、骨盤は目で見てわかるほど動いたり歪んだりはしない。